秋田の発酵食文化を知るコラム「発酵哲学」


Vol.06「いぶりたくあん漬から始まった漬物技術② 〜燻煙乾燥(スモーク乾燥)〜」

いぶりがっこが本格的に全国的に市場流通されたのは、平成の時代に入ってから。
比較的最近のこと、なんですね。

時をさかのぼると、
昭和50年代から小袋のプラスチック包装の形態で販売が開始されました。
「野菜の燻製」というもの珍しさも手伝って、想定を超える量が販売され、漬物組合もいぶりがっこの製造販売に一生懸命でした。

ところが、消費者からのクレームで返品の山が築かれました。
問題の多くは、第5回コラムにも記載した「鬆(す)入り」、「穴あき」によるクレームでした。

「鬆(す)」はダイコンやゴボウなどの根菜類に見られる現象で、細胞と細胞の間に気泡が発生し、その結果生じる「すき間」や「穴」のことです。
鬆が入ると食感が悪く、商品価値が低下することになるんです。

ダイコンの鬆入りは、圃場で栽培中に入るものと収穫後に貯蔵中や製造工程中に入るものと2通りがありますが、収穫後の発生は燻煙乾燥の温度条件に原因があります。
収穫したダイコンはいぶり小屋と称する燻製室で縄で編まれ、のれん状に吊るされて燻煙に供されるですが、熱源となる木材の薪は、ナラが多く、サクラやブナ、近年はリンゴを用いる農家も出てきております。

「従来の燻煙乾燥」は15〜20度前後に保ちながらゆっくりと時間をかけて5日ほど乾燥しておりましたが、鬆が入る場合が多く、一方、かなりの高温で乾燥すると、ダイコンから水がしたたり落ち、ダイコンの肌が黒くシワがかなり粗く乾燥がうまく進まない現象になります。
さまざまな燻煙乾燥のテストを繰り返しました。

「ダイコンは生きているのです。」

人間と同じようにダイコンは呼吸をしているのです。
収穫後は酸素を取り入れ、炭酸ガスを排出しているのです。
これを防止することで鬆を防ぐことができる。
鬆の入らない乾燥法を求めて何度も何度も実験が始まりました。
温度や湿度を調整したり、皮を剥いだり、品種を変えたり・・・

結果やいかに・・・

燻煙乾燥開始から一気に温度を上げ、室温で65℃(この時のダイコンの中心部の温度は50℃)を3時間保つことにより、ダイコンの呼吸量を抑え、鬆入りを防ぐ新しい燻煙乾燥方法を開発・確立しました。
このときの湿度はおおむね50%。

いぶりがっこを作り上げたこの乾燥技術を応用して、いぶりの浅漬け、砂糖しぼり、カクテキなどさまざまな漬物に実践されています。

令和の現在、いぶりがっこが広く流通されている状況になるまでには、さまざまな試行錯誤があったのです。

燻す工程の重要さ、ご理解いただけましたでしょうか!?

次回は、燻しの後の工程、「漬け込み製造工程」です。
お楽しみに!